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ガラスの額がついた紙の箱と、その中に黒いビニールに包まれた印画紙、それに、薄い透明のフィルムに白黒反転で描かれたマンガのヒーロー等が数枚収められていた。
印画紙に、ヒーローが描かれたフィルムを重ね、ガラスの額で押え太陽光線に数分当てる。時間と共に印画紙にはフィルムとは逆の明暗で画像が色づきはじめ、日光写真が出来上がる。


「お〜い!、日光写真」君は何処に姿を消したのだろう……?

 私が幼稚園に入園する前から、おふくろは生命保険の外交員として働き出していた。その為、兄姉の中では、私と一番下の姉がはじめて「保育園」という所に通ったのだろうと思う。
 まだ、「保育園」等と言う施設が、それ程、一般的ではなかった時代だったように記憶しているが、残念ながら「行きたくない……」と駄々を捏ね、おふくろを困らせた二人は、僅か二〜三日で通園を止めてしまった……。

 保育園だったか幼稚園だったかは忘れてしまったが、毎月定期購読される絵本があった。勿論有料だが、何故か買って貰っていた記憶がある。「よいこ」「キンダ―ブック」「ひかりのくに」などの表題がついていたように思うが、内容は何ひとつ覚えていない。
 小学校に入ると、さすがに絵本は読まなくなったが、絵本に代わって子供心をときめかせたのが、月一回発行される「学習雑誌」などと呼ばれるもので「たのしい一年生」などがあった。
 内容は、どちらかと言えばマンガ本に近かった記憶があるが、やはりこの記憶も定かではない。しかし、マンガ本と言っても今のようなマンガだけを掲載したものではなく、勿論、エロやグロは皆無であった。毎月、本の中程に挟みこまれた「閉じ込み付録」なるものが読者の心を虜にし、そのお陰で、本の厚みは倍以上に膨れ上がっていた。その圧倒的なボリュームに、誰もが次の号を楽しみに待っていた。

 閉じこみ付録には、今で言う「ペーパークラフト」で作る戦艦大和や零戦なども多かったが、年に一度程度、「日光写真」と呼ばれる付録がその中に含まれていた。
 ガラスの額がついた紙の箱と、その中に黒いビニールに包まれた印画紙、それに、薄い透明のフィルムに白黒反転で描かれたマンガのヒーロー等が数枚収められていた。
 印画紙に、ヒーローが描かれたフィルムを重ね、ガラスの額で押え太陽光線に数分当てる。時間と共に印画紙にはフィルムとは逆の明暗で画像が色づきはじめ、日光写真が出来上がる。
 定着液などと言った化学的な液体は何も使わないから、そのまま放置すると、いずれ時間と共に印画紙はすべて感光し画像は消えてしまう。多分、梱包されている印画紙は普通の写真焼き付け用の印画紙なのだろう。が、子供のおもちゃなので「暗室」など使う必要はない。当然、印画紙は白昼の下、黒いビニールから取り出された段階で完全に感光し、もはや実際の写真焼付け用には利用できなくなってしまうが、見た目に変化はないので、そんな事は気にしない。更にじっくりと太陽光線で焼きを入れ、湿式のジアゾー複写機よろしく、青く変色すれば結果オーライとなる。何とも不思議且つ夢のある世界、いや、小道具だった。
 露光時間は結構難しく、印画紙の表面の色が変わってくるのをじっと見ながら、(もう、そろそろかな……)などと気を揉みながら待つ時間が、何とも楽しみであった。元来、せっかちな私は、この時間が待てず、何枚もの印画紙を無駄にした苦い経験がある。

 今、本屋の店先には、色鮮やかな表紙の本が並んでいるが、閉じ込み付録と共に少年や少女の夢をハチ切れんばかりに詰め込んだ、あの頃の分厚い夢の塊の姿を見つける事はできない……。

 「お〜い!、日光写真」君は何処に姿を消したのだろう……?



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